
オーギュ・ハヴスソル: 魔法使い。人間と精霊のハーフブラッドで、身体的にも精神的にも性別はない。
闇魔術の組織 Shárú Ar Mort(シャルアモール)に収容され、自由を奪われ厳しい訓練や拷問を受ける幼少期を過ごした。
それ以前の記憶は奪われている。14歳頃逃亡し、反闇魔術の組織 Monokeros Order(モノケロス・オーダー, 一角獣の騎士団)に保護され、
組織のメンバーの一人から闇の魔術からの防衛術を学ぶ。その後、組織を離れてセデルグレニア魔法魔術学校に入学、寮生活を送る。
17歳頃から森を放浪する生活をして、この頃にサーシャ・アストリアと出会い、パートナー関係に。森の中にあるサーシャの家で一緒に暮らすようになる。
19歳頃サーシャとともに魔法学校アヴァロンに入学。
魔法生物と通じる能力を持ち、風属性/天候操作の魔法に長けている。動物に変身したときの姿は不死鳥。
生まれつき強い感情を覚えると目の色が変化してしまう特性を持つ(寂しさ/不安:淡水色、喜び:黄、など)が、普段は能力を制御していて碧色である。
サーシャ・アストリア: 魔法使い。人間と精霊のハーフブラッドで、身体的にも精神的にも性別はない。
人間側の親であるリアの元で育ち、精霊側の親のルシエルと暮らしたのち、森の家で一人で暮らす。その後オーギュと出会い、パートナー関係に。二人で森の家で一緒に暮らすようになる。周りの生き物の感情を自然と読み取ってしまう特性をもつ。水や植物、防衛、癒しの魔法に長けている。魔法道具作家。動物に変身したときの姿は青く光る鳥。
リア・ミシェル・レストレンジ: サーシャの親。人間の魔法使い。
(『眠りの花と金色の髪』の時系列は二つ目の魔法学校入学後です。)
(詳しいキャラクター設定は、キャラ設定のページにあります。)
『眠りの花と金色の髪』
BGM: fennesz + sakamoto - amorph
ガリレイさんが魔法植物の栽培のことでサーシャに相談があるとかで、二人でガリレイさんのおうちにお邪魔することになった。
私は天候魔法の特別講義に出るために、少し遅れて行くことになっていた。
ガリレイさんのいる青ばら館の前に着くと、私はサーシャの名前を呼んでみた。
……返事がない。
ガリレイさんの名を呼んだがやはり返事はなかった。
二人に何かあったのではないかと不安になり、玄関をくぐり館の奥まで小走りで二人を探した。
庭にたどり着くと、ガリレイさんの姿が見えた。
しかし、様子がおかしい。
サーシャはガリレイさんの膝に身を預け、ガリレイさんはその美しい髪を愛しそうに撫でている。
これは……どういう……??
えっ……サーシャ……

気づけば私は杖を振って宙に消え、森の中を駆け出していた。
急に激しい雨が降りだし、私の身を叩くように濡らしていった。
雷鳴が轟き、突風に何度も転びそうになる。
魔力が制御できない……。
この嵐を起こしているのは……私だ……。
どうしてだろう、こんな未来は想像したこともなかった。
サーシャが私の元を去ってしまう。
それは、あたりまえに起こり得ることだったのに……。
今朝、サーシャの腕に抱かれて目を覚ましたこと。その温もりを思い出す。
ねえ、どうして……?
他の誰かと…なんて……。
数日前、ガリレイさんと魔法植物の話をしているとき、とても楽しそうにしていたのを思い出した。
そっか…あのときはもう……。
涙が止まらない。
私のすぐそばまで雷が落ち、物凄い音を立てている。
ずっとそばにいてくれるって言ったのに……。
サーシャ…おいていかないで……
激しい雨は止まないまま、どれくらいそうしていただろう。
ふいにあたたかい腕に包まれるのを感じた。
えっ…サーシャ……?
見上げると、涙ぐんだ青い瞳と目が合った。

::: BGM: world's end girlfriend - 再来の風 :::
「ねえ、サーシャ、しばらくこうさせて……」
オーギュがそう言ってからもう1時間が経つのだけど、オーギュは私にぴったりっついて離れようとしない。
不安で不安でたまらないようで、この子自身にもどうすることもできないのだろう。
こんな、消えそうなくらい透き通った、薄い灰青色の瞳で涙を流すオーギュを見るのは初めてだった。
昨夜、自分の魔力を暴走させ降らせた雨でずぶ濡れになっているオーギュを見つけたとき、
その腕に刃物で何度も切りつけられたような傷があるのを見て、私は血の気が引いてしまった。
それは見たのは初めてだったけれど、森で怪我をしたのとは違うことは一目でわかった。
昔リアに聞いたことがある。
魔法使いは、ひどく傷ついたり取り乱すと、魔力を暴走させてしまうことがある。
その魔力が自分に向かったとき、それは自分自身の身体を傷つける。
多くの場合、杖腕に刃物で切りつけられたような傷ができる。
自分に向かう魔力の暴走が激しくなると、自身の命を奪うことさえあるのだという。
——どうしてこんなことになってしまったのか。
昨日、私はガリレイさんの植物の栽培を少し手伝っていた。
そしてその後少し魔法植物のことをガリレイさんと話していたのだけれど、
私がうっかり眠り草の花粉を吸ってしまい、ガリレイさんの膝に倒れ込むようにして眠り込んでしまったのだ。
少し遅れて来たオーギュが、ガリレイさんと私の様子を見てパニックを起こしてしまったようで、強い感情が入り込むのを感じて目を覚ました。
ガリレイさんに聞くと、オーギュはもう宙に消えた後だった。
すぐに後を追ったのだけど、どこに行ったのかわからず、
二人で行ったことがある色んな場所を手当たり次第探した。
森の水辺でずぶぬれのオーギュを見つけたときには、すっかり陽は落ち、森の中は暗くなっていた。
それからオーギュを連れて家まで帰ったのだけど、オーギュは泣きじゃくるばかりで、
誤解を解くこともできず、ただオーギュを抱きしめてあげることしかできなかった。
オーギュは激しく取り乱していて、私が何を言っても理解することができないようだったのだ。
オーギュの頭をしばらく撫でてやっていると、魔力を暴走させて疲れきったのか、私の腕の中で泣きながら眠ってしまった。
昨日のことは、私も謎に思っていることがある。
私が目を覚ましたとき、ガリレイさんは膝にもたれる私の髪を撫でていたのだ。
それも、まるで恋人を愛おしむかのように。
どうしてそんなことをしていたのかガリレイさんに聞きたかったけれど、
オーギュが行方を眩ましてしまったので、昨日はそれどころではなかったのだ。
結局私たちは、この日から丸1ヶ月学校を休み、二人だけで過ごしたのだった。
一度ガリレイさんにこの日のことを訊きに行った日を除いて。
ガリレイさんの話によると、眠り込んだあの日膝の上で眠り込んだ私を、事故で亡くした弟さんに重ねてしまったのだという。
弟さんの髪は私と同じような透けるような金色の髪をしていたとかで……。
誤解は解けたみたいだけれど、不安はまだ拭えないようで、
オーギュはガリレイさんの姿を見ると、私の手をぎゅっと握ってくる。
まさかあんなことになるとは思いもしなかったのだけれど、
その後オーギュが来ることになっていたとはいえ、二人きりで会ったりなんてしなければよかったと思った。
::: Ending Song: ハルカトミユキ / ドライアイス :::