
サーシャ・アストリア・レストレンジ: 魔法使い。人間と精霊のハーフブラッドで、身体的にも精神的にも性別はない。
人間側の親であるリアの元で育ち、精霊たちの隠れ家〝祈りの庭〟で精霊側の親のルシエルと暮らしていた。
周りの生き物の感情を自然と読み取ってしまう特性をもつ。
リア・ミシェル・レストレンジ: 人間の魔法使い。サーシャの親。
ルシエル: 風の精霊(エレメンタルエルフ)。サーシャの親。
ラグエル: 水の精霊(エレメンタルエルフ)。サーシャとは親戚関係。
(一つ前のお話:『放浪の果てに』)
(詳しいキャラクター設定は、キャラ設定のページにあります。)
『水色』
BGM: Ryuichi Sakamoto - solari
ルシエルとの暮らしに終止符を打ってから、しばらくの時が過ぎた。
この森の中で家を建てて住むために、ラグエルがかなり力を貸してくれた。
ここはリンドヴィズルの森。水辺が多く静かな森だ。
人が通ることも滅多になく、森のいきものが時々通りすぎるくらいのもの。
近くに居るものの感情を自然に読み取ってしまう私には過ごしやすい環境だった。
ひとの感情に悩まされることがないというのは、これまで感じたことがないくらいに自由だと思った。
生まれてからずっと、他者の感情は苦しみの種だった。
私の言動の結果生じるものや、そうでないものも含めて、すべての感情は私の中に流れ込んできてしまうのだ。
水辺で寝転がって微睡んでいると、疲れきった心が癒されていく気がした。
だけど、ここに来てから日が経つにつれて、だんだんと孤独を身に沁みて感じるようになってきた。
時々気まぐれに訪れて、私に良くしてくれているラグエルも、結局のところ私が水の特性を持っているのを気に入ってくれているだけなのだ。
本当に私を必要としてくれる人は誰ひとりいない、そのことは幼い頃にはもう解っていた。
リアもルシエルも、心の底から私を愛してくれてなどいなかったことも。
ここでは水や草花が私に安らぎをくれた。
だけれど——。
水も草花も私を煩わせはしないけれど、私と関わり合うこともないのだ。
人と関わりを持つには、私の特性は厄介なものだった。
人と人は通じ合えることはなく、気持ちはいつだってすれ違っている。
向けられる好意も悪意も、他の人たちは私ほど感じることはない。
気づいてはいけないことを、知ってはいけないことを、私は嫌でも知ってしまうのだ。

今日は何をして過ごそう。
ここに来てから、水辺でよく本を読むようになった。
魔法道具作りもだんだんうまくできるようになってきた。
あれは誰だったか、私がまだ小さい頃のこと。
〝あなたは魔法道具作りの才能がある、鍛錬を積めばきっと特別なものが作れるようになる〟
そんなようなことを言われたのを思い出した。
特別なものが作れるかはともかく、私はこうしてものに魔法を吹き込んでいくのが好きだった。
ここでの暮らしは、長年の苦しみの種に煩わされることがなく、何より自由だった。
だけど、時々どうしようもなく虚しく、寂しく感じてしまう。
この孤独はきっと、生まれながら背負わされている宿命のようなものなのだろう。
それでも、人々の中で感じる孤独よりも、こうしてひとりきりで過ごす孤独のほうが私にはずっと楽なのだ。
たとえ、これが決して終わることのない孤独なのだとしても……。
::: Ending Song: 鬼束ちひろ / BACK DOOR :::
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