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キャラ個別_サーシャ他_精霊の歌.png

サーシャ・アストリア・レストレンジ: 魔法使い。人間と精霊のハーフブラッドで、身体的にも精神的にも性別はない。

人間側の親であるリアの元で育ち、精霊たちの隠れ家〝祈りの庭〟で精霊側の親のルシエルと暮らしている。

周りの生き物の感情を自然と読み取ってしまう特性をもつ。

リア・ミシェル・レストレンジ: 人間の魔法使い。サーシャの親。

ルシエル: 風の精霊(エレメンタルエルフ)。サーシャの親。

ラグエル: 水の精霊。ルシエルのきょうだい。

ウイニエル:〝祈りの庭〟で暮らしている水の精霊。

ロジエル:〝祈りの庭〟で暮らしている地の精霊。

(一つ前のお話は『脱出』です。)

(​詳しいキャラクター設定は、キャラ設定​のページにあります。)

BGM: Ryuichi Sakamoto - ubi

 

 

 

 

 

 

〝風よ 風よ 風よ往け

 あとに残るは白い花〟

 

 

 

 

 

『精霊の歌』

 

 

 

 

 

 リアと暮らしていた頃の私は本ばかり読んでいたのだけど、〝祈りの庭〟と呼ばれるこの場所に来てからはあまり読まなくなった。

 今は、ラグエルにもらった弓を引いてみたり、竪琴を弾いたりなどをして過ごすことが多くなった。

 

 お腹が空いたら、樹木や草花の実を食べた。

 人間たちが暮らす世界とは違って色んな食べ物はなかったが、もともと食べることにあまり興味がなかったせいか、そんなことはすぐに慣れてしまった。

 

 この場所は、木々に囲まれ、草花は生い茂り、一面に水が張り巡らされていて。
 精霊以外に動くものといえば、小さな鳥たちと
魔法植物くらい。
 冷たい鎖、汚れた灰、澱んだ水……そういったものとは無縁の場所。

 

 ここは精霊が暮らす場所なので、半精霊の私には人間界よりも過ごしやすい面も多くある。
 けれども、私の半分は人間でもあるのだ。
 暮らしやすいところがある反面、つらいことも少なくない。
 いや、同じくらい多いのかもしれない。

 

 

 

 

 ルシエルは一週間前出かけたきり戻って来ない。

 人間の世界にもリアにも嫌気が差してここに来たのだけれど、私はそれを少し後悔し始めていた。

 

 精霊は人間とは異なる文化やルールの中で生きていて、長らく人間たちの中で過ごしてきた私には彼らの言動は不可解なことも多かった。

 ただ、私が半分は人間だからだろうか、精霊たちにもあまり歓迎されていないことだけははっきりとわかった。

 私に好意的なのはラグエルとウイニエルくらいで、彼らにしたってしばしば言動が理解しがたいということには変わりはない。

 

 

 

 前ここに来たのはいつだったろうか。

 私がまだ小さかった頃、ルシエルとここを訪れた時。

 小さな半精霊の子を見たことがあった。

 

 輝くような黄金色の髪に、透き通った琥珀色の瞳。

 名前は忘れてしまったけれど、その子が小さな杖を降り、雪片を舞わせて無邪気に笑っていたのをよく覚えている。

 その子と少し遊んだのだけど、素直でかわいらしい子だった。

オーギュとサーシャ_精霊の歌_golden_hair.png

 あのときみたいに、他の半精霊の子に会えるかもしれない、という期待もあった。

 けれども、久しぶりに訪れたこの場所には精霊以外には誰一人いなくて、ずっと前に会った黄金色の髪の半精霊の子に会えることもなかった。

 

 

 

 ここに来てから気づいたことがある。精霊たちは血縁関係にはあまり拘らず、同じ属性〈エレメント〉の者を好んでいるようなのだ。

 今思えば、リアとルシエルの不和も私に水の特性が出てくるようになった頃からだった。

 

 半分人間で半分精霊。結局どちらの世界にいても私の居場所はないのだと、ここに来てから身に沁みてわかった。

 人間の世界に戻ろうかと思うこともあるが、リアにはもう会いたくない。

 近くに誰がいたって、私はいつだってひとりぼっちだったし、これからもきっとそうなのだろう。

 

 

 

〝いずこへ行くか 生まれ還らず

 

 月夜の旅路に終わりなき夢

 

 帰る家は あるだろか〟

 

 

 

 悲しいときや寂しいときは、ロジエルの庭で歌を歌った。

 

 泉を囲むように咲く小さな白い花が、夜空に浮かぶ星々が瞬くように風に揺れている。

 

 小さな泉と、草花。私の孤独を癒してくれるのは、ただそれだけ。
 時々苦しくて胸がつぶれそうになる。
 だけどこれが、私に与えられた運命なのかもしれない。


 
 誰とも異なる者として生まれ、この世界で生きるというのは、きっとそういうことなのだろう……。

::: Ending Song: Syrup16g / 透明な日 :::

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